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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)16936号 判決 1988年7月28日

原告

島野幸枝

ほか一名

被告

長渕靖

主文

一  被告は、原告島野幸枝に対し、金一二万八八〇〇円及び内金一二万五八〇〇円については昭和六二年一二月二二日から、内金五〇〇〇円については昭和六三年五月一八日から、各支払い済みまで右各金員に対する年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告島野后江に対し、金二四万八一二〇円及びこれに対する昭和六二年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は二分しその一を原告らの負担としその余を被告の負担とする。

五  この判決は一、二項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告島野幸枝(以下、「原告幸枝」という。)に対し、金二五万〇八〇〇円及び内金二四万五八〇〇円については昭和六二年一二月二二日から、内金五〇〇〇円については昭和六三年五月一八日から各支払い済みまで、右各金員に対する年五分の割合による金員を、原告島野后江(以下、「原告后江」という。)に対し、金六六万九八四〇円及びこれに対する昭和六二年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を、各支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生(以下、「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和六〇年一〇月二〇日午前一一時五〇分頃

(二) 場所 神奈川県小田原市南町三―二―五〇先

(三) 加害車両 普通乗用自動車(以下、「被告車」という。)

右運転者 被告

(四) 被害車両 普通乗用自動車(ホンダインテグラZS。以下、「原告車」という。)

右運転者 小野祐二

(五) 態様 被告車が停止中の原告車に追突

2  責任原因

本件事故は、被告の前方注視義務違反及びスピード違反により発生したものである。

3  損害

(一) 原告幸枝

(1) 原告幸枝は本件事故時、原告車に同乗していたが、本件事故により頸部打撲の傷害を受け、昭和六一年四月末日まで約六か月頭痛等の症状が続いた。

(2) 損害金額

(ア) 治療費 五万六八〇〇円

(イ) 診断書等書面料 一万二〇〇〇円

(ウ) 慰藉料 一五万〇〇〇〇円

(エ) 弁護士費用 三万二〇〇〇円

(オ) 合計 二五万〇八〇〇円

(二) 原告后江

(1) 原告車は原告后江の所有であつたところ、本件事故により損傷した。

(2) 損害金額

(ア) 修理代 二一万八一二〇円

(イ) 評価損 三六万六七二〇円

原告車は昭和六〇年八月三〇日に購入したもので、その代金は標準装備付きで一六〇万八四〇〇円であつた。原告車が本件事故により「傷もの」になつたため、原告は原告車を持ち続ける気がなくなり昭和六一年一月に八九万円で下取りにだして同一種類の車両を購入した。本件事故前の原告車下取価格は一二五万六七二〇円を下らない額であつたから、差額三六万六七二〇円が評価損である。

(ウ) 弁護士費用 八万五〇〇〇円

(エ) 合計 六六万九八四〇円

よつて、原告幸枝は被告に対し、損害金合計二五万〇八〇〇円、及びいずれも本件事故発生の日の後である、五〇〇〇円(岩本町診療所の昭和六三年四月七日付け診療報酬明細書三〇〇〇円及び同診療所のその他のうち二〇〇〇円)については昭和六三年五月一八日から、その余の二四万五八〇〇円については昭和六二年一二月二二日から、各支払い済みまで右各金員に対する年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告后江は被告に対し、損害金合計六六万九八四〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六二年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを、各求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、本件事故が被告の前方注視義務違反により発生したことは認めるが、その余は否認する。

3  同3のうち、原告幸枝が本件事故当時原告車に同乗していたこと、原告車が原告后江の所有であつたことは認めるが、その余は知らない。

第三証拠

証拠は本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。

理由

一  請求原因1(事故の発生)及び同2(責任原因)のうち本件事故が被告の前方注視義務違反により発生したものであることは当事者間に争いがない。

二  請求原因3(損害)について判断する。

1  原告幸枝

(一)  原告幸枝が本件事故当時原告車に同乗していたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二ないし第四及び第一三号証並びに原告后江本人尋問の結果によれば、原告幸枝は本件事故により頸部打撲捻挫の傷害を負い、昭和六〇年一〇月二一日に慈愛病院で通院治療を受け、岩本町診療所で同月二三日、三一日、翌一一月一九日、二七日、昭和六一年四月八日、一六日に通院治療を受け治癒したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  損害金額

(1) 治療費 五万六八〇〇円

前掲甲第四、第五及び第一三号証によれば、前記治療の費用として合計五万六八〇〇円を要したことが認められ、右は本件事故による損害と認められる。

(2) 診断書等書面料 一万二〇〇〇円

前掲甲第四及び第五号証並びに成立に争いのない甲第一二号証によれば、診断書料及び明細書料として原告らが主張する一万二〇〇〇円を下らない金額を要したことが認められ、右は本件事故による損害と認められる(うち三〇〇〇円は岩本町診療所の昭和六三年四月七日付け診療報酬明細書の分、その他の同診療所の書面料は六〇〇〇円)。

(3) 慰藉料 五万〇〇〇〇円

原告幸枝の傷害の内容、通院日数、通院頻度等諸般の事情を考慮すれば、慰藉料は五万円が相当と認める。

(4) 弁護士費用 一万〇〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告幸枝は本件訴訟のために弁護士を委任したことが認められ、右費用として損害賠償請求できるのは、認容額その他の事情を考慮すると一万円が相当と認める。

(5) 合計 一二万八八〇〇円

2  原告后江

(一)  原告車が原告后江の所有であつたことは当事者間に争いがなく、原告后江本人尋問の結果によれば原告車は本件事故により損傷したことが認められる。

(二)  損害金額

(1) 修理代 二一万八一二〇円

原告后江本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第七及び第一〇号証によれば、原告車の修理代として右金額を要したことが認められ、右は本件事故による損害と認められる。

(2) 評価損 二万〇〇〇〇円

原告后江は原告車の事故当時の価格と売却代金の差額を評価損として請求している。

交通事故により自動車が損傷した場合に、被害車両の所有者がこれを売却し事故当時の価格と売却代金の差額を損害として請求しうるのは、被害車両が事故によつて物理的または経済的に修理不能と認められる状態になつたとき、もしくは、車体の本質的構造部分に重大な損傷が生じたことが客観的に認められ、被害車両の所有者においてその買換えをすることが社会通念上相当と認められるときと解される(このことは、被害者が被害車両を修理しないで売却し差額を請求する場合と、修理した後に売却し修理代とあわせて差額を請求する場合とで異ならない。)。

前掲甲第七号証及び昭和六〇年一二月二七日に原告幸枝が撮影した原告車の写真であることにつき争いがない甲第一七号証の一ないし四によれば、原告車の損傷は主としてリヤバンパー、リヤパネル等の凹損であることが認められるにとどまり、修理が物理的に不能とは認められないし、車体の本質的構造部分に重大な損傷が生じ買換えをすることが社会通念上相当であると認めるに足りる証拠もない。また、原告本人尋問の結果並びにこれにより真正に成立したものと認められる甲第八、第一五及び第一六号証によれば、原告車は新車として車両本体価格約一三〇万円(付属品等を含めると約一五〇万円)で購入してから二か月足らずで本件事故に遭つたことが認められ、前記のとおり修理代は二一万八一二〇円であるから、修理が経済的に不能とも認められない。したがつて、原告后江において、原告車の事故当時の価格と売却価格の差額を損害として請求することはできないといわなければならない。

もつとも、交通事故により自動車が損傷した場合に、被害車両が修理されても修理による原状回復が不十分な場合には、被害車両の所有者において、事故前の被害車両の価値と事故後の被害車両の価値の差額を評価損として損害賠償請求できるというべきである(したがつて、評価損の有無は、事故後に被害車両を売却したか否かとは係わりがない。)。そして、原状回復が不十分な場合とは、<1>修理技術上の限界から、顕在的に、自動車の性能、外観等が低下している場合、<2>事故による衝撃あるいは修理したことにより、修理後間もなく不具合がなくとも経年的に不具合が発生する蓋然性がある場合をいうと解される(この意味での評価損は、前記のとおり事故前と事故後の価値の差であり、事故前の車両価格と現実になされた売却価格との差額と一致するものではないというべきである。)。

この評価損の有無を原告車についてみると、前記のとおり原告車の損傷はリアバンパー等の凹損等に限られ、しかも前掲甲第七号証によれば修理内容は一部板金修理のほかは大半が各部分の交換であることが認められ、そうすると修理後も顕在的に自動車の性能、外観が低下しているとは到底認められないし、経年的不具合の蓋然性も板金修理をした部分に多少考えられる程度でありごく低いものと推認される(もともと自動車は各部分を組み立てて作られたものであるから、原告車が前記のとおり新車に近い点も考慮すれば、本質的構造部分でない部分を交換したとしても事故前と性能や耐久性等に違いが出るとは考え難い。)。右事情に、前記原告車の価格、修理代等を総合して考慮すると、本件事故による原告車の評価損は二万円が相当と認められる。

(3) 弁護士費用 一万〇〇〇〇円

弁論の全趣旨によれば、原告后江は本件訴訟のために弁護士を委任したことが認められ、右費用として損害賠償請求できるのは、認容額その他の事情を考慮すると一万円が相当と認める。

(4) 合計 二四万八一二〇円

三  結論

よつて、原告幸枝の請求は、損害金合計一二万八八〇〇円、及びいずれも本件事故発生の日の後である。五〇〇〇円(岩本町診療所の昭和六三年四月七日付け診療報酬明細書三〇〇〇円及び同診療所のその他のうち二〇〇〇円)については昭和六三年五月一八日から、その余の一二万五八〇〇円については昭和六二年一二月二二日から、各支払い済みまで右各金員に対する年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告后江の請求は、損害金合計二四万八一二〇円及びこれに対する本件事故発生の日の後である昭和六二年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを、各求める限度で理由があるので認容し、その余は理由がないので棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中西茂)

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